vol.9
前立腺がん放射線治療後の患者さんへ骨盤底筋体操(ケーゲル体操)の勧め
前立腺がん放射線治療後の患者さんへ骨盤底筋体操(ケーゲル体操)の勧め
前立腺がんの治療後に尿の切れが悪くなったり、漏れたりするような排尿に伴う症状が出ることがあります。特に、手術後には放射線治療をしなくても頻繁に起こるようです。このような症状は、前立腺がんがなくとも年齢が上がってくるとだれでもあるようですが、前立腺の放射線治療後にも起こります。前立腺がんの治療は男性ホルモンの作用を押さえるホルモン療法を併用しますので、どうしても筋肉が衰えます。年齢の因子や、放射線の筋肉や尿道に対する影響なども原因ではないかと思います。
対策としては、即効性はありませんが尿道の周りの筋肉を体操で鍛えます。骨盤底筋体操と言いますが、ケーゲルと言う人が始めたのでケーゲル体操とも言います。
色々な方法があるようですが、一番簡単なのは、おならをがまんするような感じで、10秒くらいおしりの穴を締めてからゆるめることを10回程度繰り返します。2から3か月くらいすると、徐々に尿の切れがよくなると思います。私は還暦を過ぎたころからトイレからなかなか出てこられなくなりました。外国の文献からこの体操のことを知り半信半疑で実行したところ、3か月くらいしたらすっと出てこられるようになりました。私の場合は、もっぱら朝晩布団の中で家人に知られないように密かにやっています。
ケーゲル体操のやり方はインターネットにも色々載っていますが、女性用が多くて、男性用はあまりありません。
以下に私のやり方を記載します。
始める前に排尿をします。
まず、どの筋肉を鍛えるか確認する必要があります。一番大事なところです。
少し脚を開いた状態で椅子に座ってみてください。膝の上に腕を置いて少し前かがみになります。そうです!トイレに座っている状態です。この体位で、排尿中に尿を止めることを想定して、やってみてください。また、おならを我慢することを思ってやってみてください。その時に動く筋肉が対象の筋肉です。
これらの筋肉を収縮させると、陰茎(ペニス)が内側上方へ少し引き込まれます。また、肛門の穴が何となく上へ引っ張られる感じになります。この二つを同時にやります。どうしても分からない場合は、排尿中に実際に尿を止めてみましょう。その感覚を忘れないで、実際の体操に生かします。ただ、尿を無理に止めるのは、膀胱から尿管に尿が逆流して体にはよくないので1回だけにしてください。
さあどの筋肉を鍛えるかわかったら実際の体操です。
数字を1から5までゆっくり数えながら、筋肉を5秒間収縮させます。数え終わったら筋肉を緩めて1から5まで数えましょう。これを5回繰り返します。慣れてきたら数える数を10まで(10秒)増やしましょう。繰り返す回数も10回程度まで増やします。
次に今度は1(1秒)数える間、筋肉を収縮させます。数え終わったら筋肉を緩めて1を数えます。これを5回繰り返します。慣れたら繰り返す回数も10回程度まで増やします。
以上が1セットで、朝、昼、夜とそれぞれ1セット行います。体位は先に述べた座った状態でもOKですし、仰向きに寝て、足を少し開いた状態で膝を立てて行ってもよいと思います。立ったままでも良いようです。はじめは無理せず5回くらいから行います。継続が大事です。少なくても3か月はお願いします。私はもう何年もやっています。
なお、注意点としてはお尻の筋肉は関係ありませんので、収縮させないように緩めた状態で行います。
図は私のCT像から作成した括約筋の大体の位置関係です。
笹井 啓資(元 放射線治療センター長)