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vol.11
前立腺がん放射線治療後の前立腺特異抗原(PSA)の動き

前立腺がん放射線治療後の前立腺特異抗原(PSA)の動き

 先日、数年前に放射線治療を行った前立腺がんの患者さんが心配そうな顔でおいでになりました。「実は、泌尿器科の主治医からPSAが増加してきたので、ホルモン療法を勧められているのです」とのことでした。それは大変だと持参された他院でのPSAのデータを見せていただきますと確かに増加はしているのですが、これまで測定限界以下だったものが1年くらいで0.2ng/mlまでの増加でした。

 この患者さんは、放射線治療開始前にホルモン療法(注射と飲み薬)を6か月間施行し、終了後2年間継続していました。最後の注射を受けてから2年くらいとのことでした。

 ホルモン療法の注射には男性ホルモンが出ないようにする作用が、飲み薬には男性ホルモンが前立腺の正常細胞やがん細胞で働かなくする作用があります。前立腺の正常細胞やがん細胞は男性ホルモンがあると元気になり、男性ホルモンがないと元気を失います。ですから、ホルモン療法をするとPSAの値はドンドン下がって測れないくらいになってします。この状態が測定限界以下ということです。

 注射を終了しても、その効果がすぐにはなくなりません。大体1-2くらいは続きます。このため、注射終了後も副作用のホットフラッシュなどを1-2年間は経験されることも多いと思います。その後、男性ホルモンが徐々に増加してきますので、正常前立腺細胞が元気を取り戻してPSAが増加してきます。

 では放射線治療後のPSAの具体的な動きを見てみましょう。なお、PSAは細かな変動があるため3か月以上間隔をあけて測定することが推奨されています。

 まず、ホルモン治療を行わず放射線治療のみの場合です。

 放射線治療後PSAは徐々に低下してきます。2-3年かけて最低値に達します。以後、多少の増減を繰り返した状態を保ちます(図1①)。中には、途中で増加に転じることもありますが、大概はまた低下します(図1②)。どちらも放射線治療は成功で、完治が期待できます。前立腺に放射線の出る小さな金属を埋め込む小線源治療(シード治療など)では、一時的にPSAが増えることがありバウンス現象と呼ばれます。この場合の方が、最終的にPSAの値が低くなりやすいと言われています。体の外からの放射線治療でも同様の現象があるようです。もちろん、PSAが増加し続ける場合もあり(図1③)、PSAの最も低い値+2ng/mlの時点でPSA上は再発とすることになっています。

 ただPSA上の再発と、実際の病気の再発は異なりますので、治療をすぐ行うか様子をみるかは別のお話です。一般には、PSAが倍になる期間が8か月より長がければ10ng/mlくらいまでは様子をみていてよいと言われています。その後PSAが減少することもあります。治療前の病気のリスクが高い場合や、PSAが倍になる時間が短い場合には4-5ng/mlくらいで次の治療(ホルモン療法)を開始します。

 ホルモン療法併用放射線治療では先ほども述べましたが放射線治療開始時にはPSAがとても低い値のことが多いです。したがって放射線治療の効果があったのか、なかったのかわかりません。ホルモン療法終了後1-3年くらいでPSAが徐々に増加して、やがて0.1-1ng/mlくらいのところで安定します(図2④)。中にはもう少し高い値で安定する場合もあります(図2⑤)。どちらも放射線治療成功で、完治が期待できます。もちろん放射線治療がうまくいかずにPSAが増加してくる場合もあります(図2⑥)。ホルモン療法を併用しない場合と同様に、最初の病気の状態やPSAの増加の程度を考慮して次の治療を行うか様子をみるかを決めます。

 放射線治療後のPSAの動きに慣れていない泌尿器科の先生は、手術を行った場合と同様にお考えになります。手術の場合は、正常前立腺を手術で切除していますので、理論上はPSAが0になっていなければなりません。0.2ng/mlくらいで次の治療(主に放射線治療で、サルベージ放射線治療と呼ばれます)を開始することが多いようです。前任地でも、若い泌尿器科の先生が担当されると、放射線治療後にPSAが十分に低いにも関わらず手術時の基準に合わせてホルモン療法を勧められることを時々経験しました。放射線治療後は次の治療開始前に、担当の放射線治療(腫瘍)医にも相談していただくのが良いかもしれません。

 件の患者さんに心配はない旨を説明し、紹介元の病院へもPSAを3~6か月ごとに測定しながら様子をみていただきたいとお手紙を書きました。

笹井 啓資(元 放射線治療センター長)